かもめの英語ハッピーブログ

英語講師、翻訳者、元外資系航空会社客室乗務員のkamomeskyが、英語学習法、実践の記録、日々の気付きなどについて日本語と英語で書いています。

「Made to Stick」でアイディアを読む②

こんにちは。前回の続きです。今日は「Made to Stick」から特に印象的だったエピソードについて。 

kamomesky.hatenablog.jp

 

長く記憶にとどまり、人を動かすメッセージの要素の1つ「具体性」を解説する章で「Brown Eyes, Blue Eyes」というエピソードが紹介されます。

1968年4月4日、アメリカの公民権運動指導者キング牧師が暗殺されます。翌日、アイオワ州の小学校教師ジェーン・エリオットさんは、担当する3年生の生徒たちにこの事件をどのように伝えたらよいか考えます。アイオワ州ライスヴィルは白人ばかりの町で、生徒たちはキング牧師の名前は知っていても、なぜ暗殺されなければならなかったのか、本質を理解することはできませんでした。

彼女は具体的な形で生徒たちに差別を理解させることを計画しました。その日の始業時、生徒たちを瞳の色によって2つのグループに分け、ショッキングな事実を伝えます。「瞳が茶色の子供たちは青色の子供たちより優れています」 青い眼の子供たちは教室の後ろに着席させられました。茶色の眼の子供たちはあなたたちの方が優秀だと告げられ、休み時間が長めに与えられました。青い眼の子供たちは遠目にもわかるように特別な首輪を巻かなくてはならず、2つのグループは休み時間に一緒に遊ぶことを許されません。

エリオットさんは生徒たちが急速に変貌を遂げたことに衝撃を受けます。「子供たちが、嫌な、意地の悪い、差別的な3年生に変わるのを目の当たりにしました。恐ろしい光景でした」 ある茶色の眼の生徒は彼女に向かって、青い眼なのにどうして教師でいられるのかと問う始末。

その翌日の始業時、エリオット先生は、昨日は間違っていた、実は劣っていたのは茶色の眼を持つ子供たちだと告げます。青い眼のグループから歓声が上がり、首輪を外して茶色の眼の子供たちに着けました。青い眼の生徒たちは劣等グループに位置付けられていた時は自分たちをsad, bad, stupid, meanと表現していましたが、優位に立つと、happy, good, smartであると感じ、単語カードの読み上げ速度も大幅に向上しました。

エリオットさんはシミュレーションによって、偏見という概念を具体化し、子供たちの人生に長期に及ぶ影響を与えました。10年後、20年後に行われた調査で、元の生徒たちはこの経験がなかった人々に比べてずっと偏見が少ないことが分かっています。米PBSテレビの番組「Frontline」で放映された同窓会の中で、元の生徒の1人は

“Prejudice has to be worked out young or it will be with you all your life. Sometimes I catch myself [discriminating], stop myself, think back to the third grade, and remember what it was like to be put down.”

(偏見は幼いうちに対処しなくてはならず、でなければ一生その人に付きまとうことになります。時々、差別をしている自分に気付いた時には、自分を制し、3年生の体験に立ち返り、差別される側の気持ちを思い出します)

と話しています。

上記は全訳ではありませんが、実験の詳しい様子は公共放送の番組「Frontline」(Youtubeなどで視聴可)で見ることができます。収録されているのは3回目の「差別」実験だという解説があり、下の動画では初日に「青い眼の子供たち」が優秀だと告げられます。

youtu.be

動画では2日目の午後、先生は生徒たちに、肌の色や人種などの特徴によって人を判断してよいかと問い、力強いNo!を生徒たちから引き出しています。親しい仲間の中で差別する側とされる側の両方を実際に体験したことで、差別という概念の深い理解につながったんですね。一生に関わるstickyな体験となりました。

子供たちの様子を見ると、差別や偏見の根源はどこにあるかがわかります。子供の心は粘土のように柔軟(malleable)で、どのような形にも作り上げることができます。その柔軟な間にしかできないことがあるということ。すべきでないことも。

そして、子供たちが示したように、差別やハラスメントには何らかの「優位性」が関わっているということ。その優位性に乗じて何かを仕掛けずにはいられないというのは、本質的に備わっているものかもしれません。しかも、根拠のない優位性でも十分だということは衝撃的です・・・。根拠のある優位性を得た大人は「乗っからない」決断をすることを願ってやみません。

本日もお読みくださり、ありがとうございます♪

May something wonderful happen to you today